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愛媛新聞 伊予弁

遠藤泰夫のコラム

平成19年12月8日
「師」
 12月1日は母の命日。黄泉へ旅立ってから三十年になる。
 母は昭和の初期、女大関として一世を風靡した。
引退後、スターから一転苦労の荒波に飛び込み、女手一つで三人の息子を育てる。
二男の私は近隣に名をはせるほどの悪童だったが、母はとにかく怖かった。
 悪いことをしようものなら、母はその巨体で私を雨戸にぶちつけ、けりつける。
泣いてもわめいても母の手、足は緩まない。
しかし、きちんと正座し、両手をついて頭を下げ、
「ボクが悪かったから許してください」
と謝ればピタリと母の手が止まる。
たたいた腕、けった尻をさすりながら、鬼のような母からもとのやさしい母に変身する。
ーーこれが母のしつけだった。
 読書家でなく、ましてモノを書くことなど無縁だった私だが、三十数年費やし母の半世紀を出版した。
拙著は、男土俵にあがった唯一の女性として全国に波紋を呼び、ある出版文化賞で部門賞を受賞した。
 その後、モノを書くことに興味を覚え、悪ガキだった幼いころや豪放磊落だった母、そして恩師や
友人との思い出をつづった拙文を印刷した。
 執筆中、幼いころや学校時代を思い浮かべると、出会ったすべての人からその都度何かを教えられ、
いわば出会った人はみな私にとって「師」に値すると思った。
 その中で最高の「師」は‥‥。  母に違いない。


平成20年1月12日
「寒修行」
 毎年正月6日から30日まで、北条の日蓮宗法善寺は、天長地久・国土安穏と各家の安泰を
目的とする巡拝寒修行を実施する。
 厳寒の夜、住職と十数人の檀徒は、うちわ太鼓をたたきながら巡拝する。
先頭と最後尾のちょうちんが暗い路上に揺れ、遠方から眺めると二匹の冬蛍が舞っているようにみえる。
 五十余年前、私も同行したことがある。
 大人の中にただ一人、子どもがいるのを見て、街行く人はどのように思っただろうか。
 時の住職から、体調を崩して寝込んだ母のためにと御札を賜ったのが、ついこの間のように思い出される。
 一昨年、住職に許しを請い、半世紀ぶりに同行した。
住職から借りた白装束の行衣を着込み、太鼓を持たせてもらった。が、さすがにリズムが乱れる。
しかし、同行の太鼓と合いだすと、歩くとき、太鼓のリズムと唱えるお題目がとけ合って歩調も軽くなる。
 見上げると、一年中で一番美しい冬の空は、星の輝きがいちだんとさえて神秘であった。
  <天下萬民諸乗一佛乗と成りて‥‥>
「如説修行嘗鈔」と住職から教えられたお経は、ところどころ忘れていたが、三、四回唱えると
どうにかついていけるようになった。
 さすがに寒さは感じるが、歩くほどに体が温まる。回り終わった時のさわやかさは口では言い表せない。


平成20年2月9日
「伊予の二見」
 旧北条市は中世伊予の豪族・河野氏発祥の地で、源平合戦で軍功をあげた河野道信は、凱旋したあと
海上安全と五穀豊穣を祈願し龍神宮をまつり、しめ縄を張ったと伝えられる。
 鹿島沖に浮かぶ夫婦岩、玉理(ぎょくり)、寒戸(かんど)の間に、長さ40メートル、径0.4メートルの
大しめ縄が架けられ、「伊予の二見」と呼ばれる。
 しめ縄の張り替えは、以前は毎年5月1日の龍神祭の日だったが、現在は鹿島祭り(5月3~4日)の
4日に行われる。
 「夫婦」と名のつく郷土の資源を有する地方公共団体などが一同に会し、まちおこしを図ることを目的に
「全国夫婦岩サミット」を年に一度開催している。
 平成13年に北条で行われた第11回夫婦岩サミットのメーン行事は、岩の間から昇る朝日の美しい
「伊勢の二見」と、夕日に映える夫婦岩が美しい「伊予の二見」の結婚式だった。前代未聞の結婚式は
仲人として出雲大社がある大社町長を迎えて、鹿島神社でにぎにぎしく行われた。
 時の新郎役・二見町観光協会長と新婦役の北条市観光協会長のかための杯には、空からの雨と
フラッシュの雨が重なる。全国各地の参加者から絶大なる賛辞をたまわり、サミットは成功裏に終わった。
 あの時の感動を忘れず、これからも「伊予の二見」を全国へ発信していきたい。


平成20年3月8日
「親子夫婦岩」
 北条には夫婦岩が二つある。前回紹介した鹿島沖に浮かぶ夫婦岩「伊予の二見」と
道の駅「風早の郷ふわり」の目と鼻の先、大浦湾の南側に浮かぶ夫婦岩である。
 江戸時代、17年かけて実測日本地図を作った伊能忠敬が著した「伊能忠敬測量日記」の
文化5(1808)年8月17日に
         『朝晴 先手柴山下河辺稲生善八七ツ半頃辻町出立
          風早郡下難波村の内大浦女夫山より始め
          浅海村浅海本谷村を経て野間郡浜村に至る‥‥』  とある。
 大浦地区の古老が「以前は夫婦山」といっていた」というから、
日記に出てくる女夫山がこの夫婦岩に違いない。
 「全国夫婦岩サミット」が平成13年に北条で開催された時、記念として大浦地区のまちおこしグループが
夫婦岩にしめ縄をかけた。
 「伊予の二見は親で、こちらは子。合わせて親子夫婦岩の誕生です」
 グループ代表の長野佳彦氏は笑みを浮かべる。
 グループの名は「童里夢(ドリーム)」。なんとも若者グループの響きだが、五十歳を、中には六十歳を
過ぎた8組のご夫婦の集まりである。彼らの手によって長さ18メートル、直径0.2メートルのしめ縄が
張り替えられ七年を経過したが、年を重ねるごとにしめ縄の出来栄えに目を見張る。
「全国夫婦岩サミット」で11月22日を「いい夫婦の日」と決定。この日はぜひ、ご夫婦で
親子夫婦岩にお出かけください。


平成20年4月5日
「河野氏まつり」
 毎年、10月の第3日曜日に北条地域の三会場で「河野氏まつり」が開催される。
 午前中は高縄山で「ブナ林もみじまつり」。高縄寺で「河野家累代及び各家先祖供養」が
厳かに行われ、吟詠と獅子舞の奉納がある。
 午後からは、ふるさと館で「河野氏関係交流会」。全国に点在する河野氏ゆかりの関係者が、
河野氏発祥の地で一堂に会し交流を深める。
 オープニングは、河野水軍の根拠地の一つである鹿島城、河野氏盛衰に直接的な役割を果たした
恵良城等から狼煙(のろし)が上がる。全国でも珍しい狼煙上げは参加者から絶賛される。
 開会行事の後、講師による記念講演があり、「河野洋平氏ほか河野姓の多くは河野氏がルーツ、
一遍上人は河野氏直系、初代内閣総理大臣伊藤博文は河野氏の流れをくむ‥‥」など
興味ある話に、聴衆者は胸を躍らせ耳を傾ける。
 鹿島では「鹿の角きり」が行われ、家族連れや俳句愛好者ほか大勢の観客が珍しい行事に目を見張る。
 三会場には数人の武将が登場し、まつりに花を添える。
 当日、北条地域は早朝から夕刻まで河野氏一色に染まる。今後は、居城が善応寺から移った
道後・湯築城、河野氏と関係の深い中島・忽那水軍に呼びかけ、県都松山市の一大まつりを目ざしたい。
 河野さん、そして河野氏にゆかりのある方、お友達を連れて「河野氏まつり」にぜひお越しください。


平成20年5月3日
「鹿島まつり」
 北条を代表する「鹿島まつり」の起こりは古い。
 最後の鹿島城主、河野通定・通秀親子は、河野家一門の跡目のいさかいで、鹿島城を出て
石山本願寺の戦いに参戦。帰国後、中西村に寺を建てたが、のちに三津に移り「定秀寺」を創建した。
その後毎年、定秀寺から3月15日に鏡餅を持参して、新地(現在の北条港近辺)の常夜灯の前で
城主祭を営んだのが「鹿島まつり」の始まりである。
 平成15年までは4月15、16日の両日に行われていたが、現在は5月3、4日。
初日の3日は鹿島神社の大祭。鹿島公園広場で午前から四半的(弓)の試射体験や潮風ライブが行われる。
 午後2時に鹿島神社で宮出しがあり、県無形民俗文化財の「櫂練り」が絢爛たる一大絵巻を鹿島海上に繰り広げる。広場では和太鼓演奏や伊予万歳、小学生の獅子舞があり、祭りムードを盛り上げる。
鹿島参道には、昔ながらの露天商が並び、終日賑わう。
 二日目の4日は、以前この欄で紹介したが、鹿島沖に浮かぶ「伊予の二見の夫婦岩」玉理寒戸のしめ縄の張替え。早朝から、鹿島前の大鳥居の下で消防団員や地元有志がしめ縄をつくり、午後からはりかえられるが、宙吊りの作業に目を見張る。
 両日、鹿島桟橋から「お供船」に乗船できる。
ぜひ、鹿島まつりにお越しください。 


平成20年5月31日
「北条自慢」
 わが北条から多くの著名人を輩出している。中でも小説家、脚本家として全国にその名を馳せる
早坂暁氏は北条辻の生まれ。氏はテレビ、映画、舞台で話題作品を世におくり、多くの芸術賞や
文化賞を受賞、さらには紫綬褒章を受章された。
 スポーツ界では、日本女子マラソンのエース土佐礼子選手は河野中須賀の生まれ。今年8月の
北京オリンピックに出場が決定し、二大会連続の五輪出場でメダル獲得が大いに期待されている。
昨年9月の世界陸上大阪大会では驚異の粘りを見せ、日本勢に初のメダルをもたらしたのは
記憶に新しい。
 北条の自慢を集めて相撲甚句に詠んでみた。
      ハア~北条自慢を甚句に詠めばよ
       ハア~高縄山から見下ろせば  風早平野に斎灘
       北に居並ぶ山並みは  恵良 腰折 難波富士
       エヒメアヤメが咲き乱れ  ふわりは人気の道の駅
       西に回れば北条の  シンボル公園鹿島あり
       海上彩る櫂練りと  伊予の二見のしめ縄よ
       南に回れば河野家の  ゆかりの菩提寺善応寺
       これが北条のふるさと自慢よ  ア~ドスコイ ドスコイ 
 拙稿にて汗顔の至り。長期に亘りご笑読を賜りまことに有難うございました。
by sumoujinku | 2012-09-08 19:14 | 遠藤泰夫のコラム


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